生産地
Farm
下 野
佐賀県鳥栖市
筑後川が育んだ肥沃な土地で
稲が持つ力を引き出す
鳥栖市の南部、遠くに九州新幹線の高架線路を望む下野地区。筑後川沿いの平地に一面、田んぼが広がっている。かつて幾たびも川の氾濫に見舞われながらも、筑後川と共に生きてきたこの土地。治水工事により川が暴れることはほとんどなくなったが、その川によって育てられた土地が、強く美味しい米作りを今も支えているという。
佐賀一の米処と言われるほどの規模を
64歳にして後を継ぎ新規就農へ
長く地元の役所に勤めて、定年退職しました。私の妻はこの地域一帯で長く米作りをしてきた農家の三女。義父の代では30町(約9万坪)まで広げ、佐賀一の米処と言われるほどの規模を誇りました。しかし、子どもたちがみな女子だったため、退職する時点で後継者がいない状態でした。義父に頼まれ、私がその後を継ぐことになり、64歳での新規就農でした。
機械の扱いから米作りまで
全てが新しい挑戦で
ゼロからのスタート
もともと、体が動くならば80歳くらいまでは何か仕事をしようと思っていました。頭も体も動くのに、何もしないというのはもったいない。妻の実家が受け継いできた家業を絶やしたくないという思いもあり、米作りならば農繁期は決まった時期だけだ、田舎で良い空気を吸いながら働くのもよいだろう、そんな思いで後を継ぐことを決めました。これまで農業経験は全くなかったので、ゼロからのスタートで、機械の扱いから米作りの全てを教えてもらいました。もちろん簡単にはいきませんでした。
土地の性質に合わせた
「稲の力を引き出す」水管理が
美味しいお米作りの秘訣
義父から引き継いだ美味しい米作りの秘訣は、土地の性質に合わせた、「稲の力を引き出す」ための水管理です。
ここは筑後川と宝満川の2つの川が近く、昔は頻繁に水害が起こるような地域。水害は災害である一方で、山手からたくさんの砂が運ばれてきて、砂混じりの豊かな土地を作ってくれます。「この土地の質が良い」と義父から教えられました。同じ筑後川沿いでも粘土質のエリアもありますが、この付近の地区名「畑田」は、昔から田畑に適している土地だったことが由来だと思います。
砂混じりの土地は水がはけやすく肥料もとどまらないため、頻繁に水を入れたり肥料を調整したりと、こまめな管理を行わないといけません。しかし、この管理を適切に行うことで、水田の期間中に肥料が抜けて稲が自分の力でしっかりと育ち、米の甘さが引き出されていきます。いい土地で水管理をしっかり行えば、肥料はたくさんは必要なく、稲が本来持つ力によって米が美味しくなる。このことを徹底することで、畑田地区では甘くてツヤツヤの上質な米が採れるようになります。義祖父の代から何十年も続けて来た農法です。
しかし、治水が整い川の氾濫も滅多に起きなくなってしまったため、昔のように砂が入れ替わることもなくなり、少しずつ土地が痩せていくという懸念がでてきました。そこで、今後は化学肥料ではなく有機肥料を入れて土を肥えさせようと研究中です。義祖父の時代は馬糞をまいていたそうですが、農耕馬が身近にいた昔と違って、今は手に入れるのが難しく高価です。そこで、魚粉やぬかを混ぜ込んだり、稲藁をしっかりすき込む方法などを検討し、甘く美味しくて収量も確保でき、自然にも体にも優しい米作りにつなげていければと思います。
口コミが強い地盤となる
美味しい米と誇れるように
半分ほどのお米は個人の方へ直送しています。さらにお弁当屋さんや飲食店、高校や大学の学生寮や食堂などに納めるなど、新しい取引先を日々開拓中です。美味しい米を作っても、それを売るのはまた難しく大変なこと。だからこそ、生産者と消費者が顔と顔を突き合わせ、直接取引を行う中で、少しずつ人脈を広げ販路を拡大してきました。地道な取り組みですが、口コミが広がることで強い地盤になります。もちろん、そのためには美味しい米への自信があってこそです。新たに取引を始めた学生寮で、「子どもたちが『米が美味しくなった』と喜んでたくさん食べていた」なんて話をお聞きしたときは、本当に嬉しくやりがいを感じました。
代々引き継いだ
美味しい米作りを
次の世代へ
これまでもこれからも変わらず、「美味しい米を作る」ということを、とにかく突き詰めていくことです。ただ、義父からは「無理をするな、体が資本だから」とよく言われます。自分が無理をしてきたからこその言葉だと思います。今は義父の頃から少し規模は縮小してはいますが、それでも15町ほどの規模で米・麦作りを行っています。従業員を正社員として雇い、海外からの農業研修生も入ってもらっていますが、それでも人手がなかなか足りない状況です。そのため、人材確保も急務です。代々続いた美味しい米作りを引き継ぎ、次代へと発展させるために動き続けたいです。
農家と米卸会社の垣根を超え
より美味しい米作り・販売を目指す
カネガエさんとの取引はこの5〜6年くらいです。偶然、社長と知り合う機会があり、ぜひ取り引きしてくださいとお願いしました。カネガエさんは、こだわったお米の味をしっかり理解し評価してくださるのでありがたいです。また、通常の流通とは違う新しい可能性ももたらしてくれます。今後は、「農家と米卸の会社」という間柄を超えて、協働しながら米のブランド化を図り、より美味しいお米作り、お米販売を目指していくような関係性を築いていきたいと思います。